フツウをかきまぜる日々

“ひと”にまつわる事柄を、自分の経験とマンガや映画などを絡めて描きます。

ナラティヴコミュニティの意義・分類・進め方

ナラティヴコミュニティとは?

 語りによって構成され維持される共同体。「回復」「研究」「解放」などの大きな物語が軸にあり、またその中で新たな語りが創出される。

 

ナラティヴコミュニティの意義

■他者に関心を持つこと/持たれること

 物語に対する敬意から出発し、その世界に立ち会い、確かに見届ける。「わたし」は仲間たちに見届けられること、聞き届けられることで、安心感を得る。そこから学びや変化が立ち上がる。

 

■経験の共有

 生活する上での違和感や困難、苦労は、周囲の人に打ち明けても理解されなかったり、馬鹿にされたりすることがある。だから「わたし」の違和感・困難・苦労はすべて「なかったこと」にしないといけなくなる。それらを感じてしまう自分を否定しないといけないといけなくなる。「普通のフリ」をしないといけなくなる。

 こうして埋もれて未整理だった違和感・困難・苦労は、同様の違和感・困難・苦労を持つ者と出会うことで、ようやく触れることができるようになる。また仲間と共有することで「おかしなこと」ではなく普遍的に起こり得ること、と解釈しなおすことができる。これまで「自分が悪い」と済まされてきたものを、本当は何が問題なのかが丁寧に紐解けるようになってくる。これは仲間の「同質性」による。

 

■エピソードの誘発

 仲間の物語は「わたし」の記憶を呼び覚ます。見たくないからしまいこんでいた、でもどこか胸の奥で燻っていた経験。どうせ自分は駄目だという物語に支配されて忘れ去っていた経験。仲間の物語によって、新たな自己像が見出される。

 

■「わたし」の相対化

 「絶対にこうだ」「当たり前だ」と思っていることが他者にとってはそうではないことがある。「わたし」が何年も苦労していることを他者はさらりと受け流していることがある。凝り固まってしまった「わたし」の思考や価値観を、仲間の物語は「こう考えることもできるのか」とその幅を広げていく。これは仲間の「差異性」による。

 

■物語の再構成

 経験を共有することで向き合えるようになった物語。他者の物語によって誘発された物語。「わたし」を相対化する他者の物語。「わたし」はそれらを拾い集めながら、「わたし」の物語をもう一度紡ぎなおす。「わたし」を否定するものではない、周囲の人を傷つけるものでもない、新たな物語を再構成する。

 

ナラティヴコミュニティの分類

※対話の形式

・言いっぱなし聞きっぱなし:ある程度の時間一人だけで話し、それを順に回す形式。話している間他の参加者は言葉をさしはさんではならない。

・クロストーク:順番関係なく参加者が自由に言葉を交わす形式。話すことが苦手な人がなかなか語りの機会が得られないことも。

 

■セルフヘルプグループ

 似た境遇、属性の参加者同士で構成されるコミュニティ。言いっぱなし聞きっぱなしという対話形式がとられる。他者のまなざしを気にせず自分の語りに集中することでき、同時に聞き届けられもするメリットがある。これまで意識していなかった「わたし」の側面が表現される。

 

当事者研究

 ホワイトボードや模造紙を用いながら違和感・困難・苦労を視覚化し、研究する実践。どんな時に苦労が生じているのかを探ったり、苦労が生じているときどんな行動をとっているかをふりかえったりするなどして、苦労が発生するメカニズムを探求するプロセス。発生のメカニズムを踏まえた上でどのような行動をとればいいのか実験をしてみて、より良い対処を探るプロセスがある。

 ファシリテーターの他に書記がいる。言いっぱなし聞きっぱなしの後クロストークをすることが多い。似た境遇、属性の人が集まることもあれば、そうでないことも。

 

■哲学カフェ

 境遇や属性ではなく、テーマをもと参加者が集まるコミュニティ。哲学的なテーマについて参加者の意見を求めながらファシリテーターが深めていく。参加者の差異性が高いため、相対化が進みやすい。

 

■CR(コンシャスネス・レイジング 意識覚醒)

 女性解放運動の中で女性たちが取り入れた手法。「個人的なことは政治的なこと」を合言葉に個人的とらえられていた問題を参加者同士で共有することで普遍化させ、社会的な問題として位置づけた。埋没した経験を「意識化」する営みと言えるだろう。ファシリテーターは持ち回りでやるのが基本。

 

ナラティヴコミュニティの進行手順

①場のルールを確認する

②自己紹介、アイスブレイク、ストレッチ

③テーマを決める                             

・事前に

 …事前に話し合いやリーダーの独断で決めておく

・その場で

 …参加者から意見を聞きつつ決める

④ワークシートの記入

 対話を始める前にワークシートに自分の話したいことを書いておく手法もあり。なかなか普段言葉できないことなどをテーマにするときにはおすすめ。ない場合も多い。

⑤対話(クロストーク及び、言いっぱなし聞きっぱなし、あるいは組み合わせ)

⑥クローズ

 

※本記事は「ナラティヴコミュニティ」を提唱した野口裕二の『物語としてのケア』を参考に、西井の解釈を加えて書き示したものです。