フツウをかきまぜる日々

“ひと”にまつわる事柄を、自分の経験とマンガや映画などを絡めて描きます。

合コンで研究データを集めるのはやめてください。

「語る」をテーマに居場所をつくる活動をしていて難しいのは、プライバシーの問題である。
 
 
固定メンバーではないテーマ型のコミュニティを維持するうえで発信は欠かせない。
新しい人を呼びこんだり、資金を集めなければならない場合、「何をしているか」をしっかりと発信しなければ新規参加者やスポンサーに伝わらないからだ。
 
しかし、「ここだから話せる」「ここなら素の自分でいられる」という要因によって安心感が生まれるコミュニティの場合、参加者の写真や言動を発信するのは、慎重にならなければならない。
何気なく語ったことを無許可で発信されたら、そのコミュニティは一気に危険なものになる。
 
 
その重要性を気づかせてくれたのは、ある不思議な合コンに参加した経験である。
 
大学の友人に「4対4の合コンを友だちが開くのだがメンツが足りないので来てほしい」と誘われた。
恋人もいなかったので断る理由もなく、(むしろバラ色の結果を多少期待して)参加した。
 
待ち合わせは店ではなく近くの広場。参加者は全員大学生だった。
 
しかし何かがおかしい。
 
その場には8人ではなく9人いるのだ。
どうしたって1人余る…。
 
妙なことはさらに続く。
 
幹事(友人の友人)の女の子が参加者全員にアドレス交換をしたうえで、
『今どんな気分ですか?』
とメールを送ってくるのである。
 
不思議に思いながらも
『緊張した気分です。』
と無難な返信をし、全員で店へ向かった。
 
9人でどう座るのかと思っていたら、幹事ちゃんが「〇〇さんはここ、〇〇くんはここ」とかっちりと席指定をし始めた。
どうやら事前に考えていたらしい。
そして本人はと言うと長方形のテーブルの、いわゆるお誕生日席に陣取った。
 
決まっているのは席だけではない。
全員の飲み物が届くなり
「では今から隣に座っている異性の人と話してくださーい。時間は30分ですっ☆」
と幹事ちゃんが宣言した。
 
もう始まったからにはこの奇天烈な30分会話タイムに乗るしかない。
 
シーザーサラダを口に運びながら私は隣の黒髪の女の子との会話に興じた。
 

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しかしおかしい。
 
隣同士で話しているなら、席配置的に幹事ちゃんは1人余ってしまうはずだ。
彼女はこの時間何をしているんだ…?
とふと目をやると、メモ帳か何かにかりかりと何かを書いている。
本当に不思議な人だ。
 
30分経ったら次も同じ要領で別の女性と話した。
幹事ちゃんは相変わらずだ。
 
合コンでよく男性参加者の課題として挙げられるのが、同じ女性に好意を持つことだろう。
それを避けるために男性は途中で一緒にトイレに行って打ち合わせしたり、自分のお箸を好みの女性に向けて示し合わせたりする、と何かで読んだことがある。
なんともアホらしいがそこが男の悩みどころらしい。
 
が、なんとも丁寧なことに幹事ちゃん考案の合コンタイムスケジュールには、同性内打ち合わせタイムが盛り込まれていた。
 
「じゃあ男の人は右側、女の人は左側に集まって、今どんな感じか話し合ってくださーいっ☆」
 
面食らいすぎておどおどする私たちを追い打ちするように幹事ちゃんの奇行は続く。
 
再度メール連絡である。
『今の気分は? 気になった女の子がいたら教えてください』
 
ははあ。なるほど。
幹事ちゃんはとんでもない善人で、恋を求めてさまよう男女のキューピッドとして仲介者のような立ち回りをとろうとしているのか。
 
いや、しかしそれにしてはあまりに事前準備に余念がなさすぎる…。
 
 
幹事ちゃんの一連の怪行動の意味が分かったのは合コンの後半が始まった頃であった。
 
参加者の一人が頼んだドリンクが届けられた時、幹事ちゃんが彼に聞いたのである。
 
「それ何頼んだの?☆」
「え・・・カシスウーロンだけど・・・」
「カシスウーロンね!☆」
 
と言いつつ幹事ちゃんは例のメモ帳におそらく『カシスウーロン』と記入した。
 
 
私はハッとした。
 
こ、これは…
 
データをとられている!!!!
 
私たちの言動から態度、どのタイミングで何を頼んだかまで。
合コンが始まってからの参加者の動向や感情がすべて彼女のメモ帳に記録されている。
 
軽い気持ちで来たつもりが合コンという名のゲージに入れられたモルモットにされていたのだ。
 
大学の研究論文などに用いるのか?
だとしたらこのような感じだろうか。
 
 
研究テーマ:異性間交流における初対面の大学生の行動観察
 
目的:初対面の男女が短期間のうちにいかにして関係性をつくり、どのような感情の起伏がおきるのか探る。
 
方法:合同コンパという形で8人の男女を集め、2時間、30分刻みで偏りなく会話をしてもらい、初め、中頃、終わりの3回にわたり、その時点での気持ちの変化を教示してもらう。またどのような発言内容や行動があったかを記録する。
 
 
究極のプライバシー搾取である。
 
私は完全に興を削がれ、その後どうずごしたかほとんど覚えていない。
もちろん幹事ちゃんから終了後の質問メールも来たが、なんと返したかも覚えていない。
バラ色の結果どころではない。揚々と参加したはずが、怒りか呆れか、どちらにしろ後味の悪さだけが残った。
 
 
コミュニティやイベントの際、その内容を記録・発信する場合、どうして記録するのか、記録したものをどう使用するのかを参加者に伝えるのは最低限のマナーである。
それをないがしろにされた人がどう感じるのか、幹事ちゃんの合コン研究によって痛いほど思い知った。
 
自分のしたい研究や発信に夢中になればなるほど、関係者をないがしろにしてしまう可能性がある。
なんの説明もなくカシスウーロンを記録するようなことのないよう気を付けたい。
 
 
そしてもう一つ最後に言っておきたい。
 
合コンに参加して最初に確認しなければならないのはタイプの異性がいるかどうかではない。
 
 
参加者の数が奇数ではないか、ということである。