フツウをかきまぜる日々

“ひと”にまつわる事柄を、自分の経験とマンガや映画などを絡めて描きます。

AKBのCDを買う恥ずかしさを超えた先にぼくらは真の勇気を手に入れる。

TSUTAYAのCD売り場でアルバイトをしていた6年前、音楽のデータ化が進み、どんどん先細りしていくCD販売業界にとってアイドルの新譜は生命線であった。
特にAKB48は「ポニーテールとシュシュ」「ヘビーローテション」などその人気は絶頂にあり、その派生グループも人気を博していた。
 
AKBの新しいシングルが発売した日、学ランのボタンを3つ開け、ズボンを腰履きし裾をズルズル引きずった、見るからにヤンキー風な男子高校生が店内に入ってきた。
レジカウンターにどっかと身を乗り出した彼は
 
「おい、にーちゃん、AKBの新しいの出たやろ。買うわ。マジで。
え?限定版と通常版?
なんぼ違うん?
えっ高!!
ええわ買うわ。早くだせよ、ほら。」
 
と勢いよくお金を投げ渡し、それだけ買うとさっさと帰っていった。
その態度は威嚇的で、睨みつけるような目で私と限定版CDについていたグッズを交互に見ていた。
年下に「にーちゃん」と言われたのはこれが最初で最後である。
 
こんなこともあった。
 
休日のお昼時の店内。
店長がこっそりと私に
「西井、あそこにいる高校生くらいの客おるやろ。ちょっと気を付けて見といてくれ」と耳打ちした。
 
なるほど。
その細身で気弱そうな男性客は何かを買うわけでもなく店内をウロウロと歩き回り、チラチラとこちらを見ており、いかにも怪しい。
スタッフマニュアルに書いてある万引きの特徴にも重なる。
 
小一時間ほど経っただろうか。
いっこうに購入もせず店にいたそのお客は、突如足早に商品整理をしている私のもとに近づき、どもりながら叫んだ。
 
 
 
「いっ、いい板野友美のシングルはどこにありますかっ!!」
 
 
人気があるとは言え、今のように当たり前のコンテンツにはなっていなかったAKB48
そのCDを男の子が買うのは恥ずかしいものがあった。
1時間以上溜めて溜めて、ようやく彼はその言葉を絞り出すことができたのだ。
 
一方、イケイケに見えるヤンキー君も、板野友美ファンの細身くんと同い年くらいなので、CDを買うとき彼も恥ずかしさを感じても不思議はない。
しかし彼はその恥ずかしさを、勢いと威嚇でやり過ごした。
まるでハリネズミが弱く柔らかい肉の部分を守るためにトゲを伸ばすように、攻撃的な物言いをすることで自分の「弱さ」を隠したのではないだろうか。
 
自分の失敗を指摘されて声を荒げる人。
自分が集団からハブられてしまう不安から逃れるために他の人の悪口を言う人。
 
自分の「弱さ」を受けいれるのは本当に難しい。
 
しかし受け入れなければ、いつまでも攻撃的、もしくは逃避的でいなければならない。
イケイケヤンキー君は自分が強くあるために、言いたくない相手にも「おい、にーちゃん」と言い続けなけらばならないのだ。
 
いくら時間はかかってもいい。
CDを買うためだけに1時間以上かけてもいい。
「アイドルCDを買うのは恥ずかしい。けれど…」と自分の気持ちを素直に受け入れた先に、良好な他人との関係や、無理をしない余裕のある生活がある。
 
細身くん、本当にあなたは素敵です。