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フツウをかきまぜる日々

“ひと”にまつわる事柄を、自分の経験とマンガや映画などを絡めて描きます。

弱さを知るには-スラムダンク編-

前回の記事で書いた自分の弱さ、つまり自分の限界点を知るためには、まず「他者と出会う」必要がある。
もちろん自分以外の人とは毎日のように会っているだろう。
しかしその相手と自分の価値観の違いなどを鮮明に感じることはあまりない。
逆に言えばそのような他者の中にある“他者性”に触れる機会があれば、自分にはないもの、自分にはどうにもできないものの存在に気づくことができる。
 
今回含め、3回にわたって「他者との出会い」について書いていきたい。
 
 
井上雄彦の傑作『SLAMDANK』を知らぬものはいないだろう。
高校バスケットボールを描いたその作品には、文字通り手に汗握るシーンが幾度も描かれ、ラストまで息つく暇なく怒涛の展開を見せる。
また「諦めたらそこで試合終了だよ」など名言を数多く残しており、読者の心をつかんで離さない。
 
個人的に「良いスポ根漫画を読み終わった後そのスポーツが上手くなったと錯覚する現象」が最も強く表れる漫画でもある。
今なら3ポイントシュートをぼこぼこ決められそうな気がする。
 
数ある名シーンの中で私が最も好きなのはクライマックスの日本最強の山王高校戦、主人公の所属する湘北高校バスケットボール部の部長である、ゴリこと赤木剛憲が吼えるシーンである。
 

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(井上雄彦『SLAMDUNK』)
ここに至るゴリの内面の変化が今回のテーマ「他者と出会い、自分の弱さをしる」を如実に表している。
 
神奈川県NO.1センターと評され、それまでの試合では得点源の1人として活躍してきたゴリの前に、山王高校のセンター河田が立ちはだかる。
ボディーバランス、バスケセンス、シュート力などあらゆる面でゴリを上回る河田に、ゴリの攻撃はことごとく封じられる。
 

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それまで湘北高校が窮地の際には自分の力で勝利への道を切り拓いてきたゴリにとって初めての経験である。
河田に勝たなくては、と焦るゴリは無謀な攻めを繰り返す。
 

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周りが見えなくなったゴリにストップをかけたのは、3年越しのライバル、陵南高校の魚住である。
 

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寿司職人を目指す彼は、大根のかつらむきをしながら、「河田は華麗な技を持つ鯛、赤木は泥にまみれた鰈だ」と形容する。
その言動には「人はそれぞれ違い、できることとできないことがある」「ゴリは刺身のツマのように引き立て役になることができる」というメッセージがあった。
 

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今まで誰よりも強かったからこそ、自分が勝たなければ湘北高校は負けると思っていたゴリ。
それが河田という圧倒的な「他者」と出会うことで、彼は自分の限界に気付く。
 
「バスケのうまさ」だけではなく、「経済力」「社会的評価」「イケメンさ」など、様々な個人の強さだけを追い求めても、必ず自分よりも上がいる。
その時、頼りにしていたその強さは一気に崩れる。
 
その事実を受け入れず、「俺は負けない」とゴリが延々と河田に勝つことに執着し続けたら…。
ゴリが魚住の助言で自分の限界を受け入れ、「個人の強さ」ではなく、「他のメンバーの力」に頼ることができたからこそあの湘北高校の奇跡的勝利はあった。
 

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もちろん個人の努力も大切だ。
しかし、そこには限界がある。
それを受け止めれば、私たちの可能性はさらに広がる。
 
その一連のプロセスをゴリは見せてくれた。
 
また、ゴリがそうであったように、自分の弱さを受け入れるのは難しい。
その時私たちにとっての魚住はいるか。
 
「お前は鰈だ」と言ってくれる存在をつくっておくのが、カギになるかもしれない。