フツウをかきまぜる日々

“ひと”にまつわる事柄を、自分の経験とマンガや映画などを絡めて描きます。

ハゲの権利擁護。そしてハゲからの解放。

高校2年の時、クラスで班をつくり、班ごとにテーマを決めて数コマにわたって研究・発表するという「課題研究」の時間があった。
今思えば2000年から導入された「総合的な学習の時間」を効率的に潰すために教師たちが設定したようにも思えるが、そんな邪推とは裏腹に、おもしろい研究がいくつかあった。
 
サザエさん一家をリアルで考える」
マスオさんを鱒、フネさんを船…など、現実のものにしていくと、果たして磯野家は成り立つのかという研究である。
確かサザエさんにワカメちゃんが食べられたような…。
 
「計算で求められるサイコロ10000万回ふったときの賽の目の確率は本当に正しいか」
なんともアホな研究である。メンバーたちは教室の隅でサイコロを1万回振り、出た目を延々と記録していたのを覚えている。
 
さて、私の班が何をしたかと言うと、まさに今回のお題、「ハゲ」である。
 
「なぜハゲるのか?」を調べるのではない。
「頭の何%地肌が出ていれば、人はその人をハゲと認定するか」を調べる研究であった。
 
幸い学校には頭髪の薄い先生方が多くいらっしゃった。
 
調査方法はこうだ。
薄毛の先生方の「頭全体における地肌があらわになった面積の割合(=地肌率)」を算出したうえで、彼らの顔写真だけを載せたアンケートを作成。
全校生徒に配布してそれぞれの写真の下に「ハゲorハゲてない」を記入してもらう。
統計にかけて「人が人をハゲと認定する地肌率」を明らかにしようとしたのである。
 
この調査法には大きな壁があった。
そう。
地肌率の算出方法、つまり立体である先生方の頭をどう測り、どう面積の計算を行うかである。
 
難解な幾何学を学んでいるはずもなく、途方に暮れた私たちは、数学のヤスオカ先生に相談しに行った。
 
「それはあれや。頭にラップをかぶせてやな。
地肌が出てる部分をマジックでぬりつぶすねん。
ほんなら平面になるやろ。平面なら計算する方法もあるわ。」
 
 
ヤスオカ先生…!
あなた、自分はハゲていないことをいいことに、なんて鬼畜な測量方法を提案するんだ…!
 
 
研究を進める楽しさに憑りつかれ、それが鬼畜であることなど考えもせず、
「素晴らしい方法だ!」とテンションの上がった私は早速先生方への依頼文を作成した。
 
「〇〇先生、このたびは私たちの課題研究に協力していただくべく、ぜひとも貴方様の頭をラップで…云々…」
 
 
さて、さすが関西である。
書面を見た薄毛先生方のほとんどは
「これはおもろい! 俺の頭でよかったらぜひ測ってくれたまえ」
と賛同してくださった。
その数占めて7人程度。
 
今まで誰も手を付けたことがない(であろう)大研究の成功を期待した、その時である。
 
教室で測量の日取りをメンバーと相談していたところに、英語のスミダ先生が現れた。
測量を依頼した一人で、地肌率は計測するまでもない。堂々の100パーセントである。
 
 
「おい、西井、これなあ。ちょっと考えてみたんやが、人権的に問題あるんちゃうか?」
 
 
 
何も言えなかった。
当事者に人権問題と言われてしまっては、反論の余地もない。
 
先生だって本当は生徒の学習を応援したかったはずだ。
その上で私を止めに来たスミダ先生の真剣な表情に、私は彼の踏み込まれたくない部分に土足で踏み込んでしまったことを痛感した。
 
結局その研究が進められることはなかった。
 
 
それから10年。
やや毛量が少なくなった後頭部に触れるたび、 あのころ面白半分で口にしていた「ハゲ」という事象が音を立てて私に近づいてくるのがわかる。
 
ハゲたら全部剃ればいいという意見もあるだろう。
しかし坊主ヘアーは最も似合う似合わないが分かれる髪型だ。
皆がブルースウィルスではない。
また意図的に行うスキンヘッドは反社会的に見られてしまうため、勤め人は簡単に剃ってしまうこともできない。
 

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薄毛について、主宰している「男の男による男のための第5回勉強会『男とプライド/劣等感』」でも話題になった。
「風が吹いたとき髪が乱れて、身体が強張るのを感じるんです…」
「周りの目を気にしてしまって、お辞儀をすることもためらわれる…」
男社会に暗い影を落とす、本当に深刻な問題である。
 
どんよりとした勉強会の雰囲気に、希望の光を照らしたのはメンバーの菅原さんのお話だった。
 
菅原さんの地肌率は50%くらいだろうか。
にもかかわらず、菅原さんは敢えて薄毛が目立つスポーツ刈りにし、薄毛を前面に押し出す。
仕事でかかわる子どもたちにも自虐ネタとして披露するらしい。
 
 
「だって守るものが一つ減るんですよ? こんな楽なことはないです。」
 
 
地肌率が30パーセントを上回るまでには、ハゲジレンマから解放されていたいものである。
 

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